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生成AIじゃないAIたち——顔認証も需要予測も、AIブームのずっと前から働いている

生成AIじゃないAIたち——顔認証も需要予測も、AIブームのずっと前から働いている

パンハウスインサイト編集部
2026.07.12

「AIとは何か」で、AIが入れ子構造になっていること、そしていま私たちが「AI」と呼んでいる生成AIは、その一番内側のごく狭い一角にすぎないことを見てきました(まだの方はAIとは何かから読むとつながります)。

では、その外側の層には、いったい何がいるのでしょうか。今回は前回と同じ入れ子図を、外側から一枚ずつ剥がしていきます。

AI・機械学習・ディープラーニング・生成AIの入れ子構造を示した図。外側から順に大きく包み込む関係で、いちばん内側の生成AIに「いまの主役」と注釈が付いている

図の一番内側が生成AI。その外側には「ディープラーニング」「機械学習」「AI」という層があり、層と層のすき間には、新しい内容を創作するのではなく、入力された情報を認識・分類・予測するタイプのAIがぎっしり詰まっています。しかもその多くは、生成AIブームのはるか前から、いまも社会を静かに動かし続けています。外側から順に見ていきましょう。

第1の層:AIだけど「機械学習じゃない」AI

一番外側の層、AIでありながら機械学習ではない領域。ここにいるのは、データから学習せず、人間が書いたルールや手順どおりに動くAIです。

  • ルールベースAI/エキスパートシステム:「この条件ならこう判断する」を人間が書き並べたAI。経費精算システムの申請ルールチェック、初期の迷惑メールフィルタ(「特定の単語が含まれていたら迷惑メール」)、税務・会計ソフトの判定ロジックなどが該当します。1980年代の第2次AIブームの主役で、医療診断を支援した「MYCIN」が有名です。
  • 探索・推論アルゴリズム:膨大な選択肢の中から最適な一手を高速に探し出す仕組み。地図アプリが渋滞を避けた最短ルートを出すのは、ダイクストラ法やA*(エースター)といった経路探索です。1997年にチェスの世界王者を破ったIBMの「ディープブルー」も、“学習”ではなく1秒間に約2億手を読む超高速な探索でした。

技術的な勘所としては、この層のAIは判断根拠が完全に明確で、なぜその結論になったかを一行ずつ追えます。一方で、賢さは人間が書いたルールの上限どまり。想定外の状況にはめっぽう弱い。それでも「ルールがはっきりしている定型業務」では、いまも十分に現役です。

第2の層:機械学習だけど「ディープラーニングじゃない」機械学習

一枚剥がして、次の層。そもそも機械学習とは、人間がルールを一つずつ書く代わりに、大量のデータからパターンや規則性をコンピュータ自身に見つけさせる仕組みのことです。この層にいるのは、その機械学習のうち、ディープラーニングを使わない古典的な手法たちです。

代表的な技術には、次のようなものがあります。

  • 線形回帰:データの傾向を直線で捉える、最もシンプルな数値予測
  • 決定木・ランダムフォレスト:「Yes/No」の質問を枝分かれさせて判定する
  • SVM(サポートベクターマシン):異なるカテゴリを最もきれいに分ける境界線を引く
  • k-means:似た者同士をグループ分けする(クラスタリング)

用途の具体例としては、クレジットカードの不正利用検知、銀行の与信審査、小売の需要予測(発注最適化)、メールのベイズフィルタ、ECサイトの「あなたへのおすすめ」の土台などが挙げられます。

技術的な勘所は、この層が表形式データ(売上・顧客属性・センサー値など)に強く、少量データでも機能し、GPUなしのCPUで動き、判断根拠も説明しやすい点です(決定木ならどの条件で分岐したかを追えます)。派手さはありませんが、「AI導入」の裏側が、実はこの層だったというケースは今も非常に多いのです。

第3の層:ディープラーニングだけど「生成AIじゃない」ディープラーニング

さらに一枚剥がして、生成AIのすぐ外側の層です。ここにいるのは、ディープラーニングを使いながら、新しい内容をゼロから創作するのではなく、入力に含まれる情報を認識・分類・予測することに徹したAIたち。生成AIと同じ深層学習を土台にしながら、その目的はまったく違います。

そもそもディープラーニング(深層学習)とは、人間の脳の神経回路を模した「ニューラルネットワーク」を何層にも重ねた、機械学習の一手法です。層を深く重ねることで、ルール化しにくい画像・音声・動画のような複雑なデータからでも、高い精度でパターンを捉えられるようになりました。

ディープラーニングのニューラルネットワークの模式図。左の入力層から、いくつもの中間層(隠れ層)を経て、右の出力層へと、各層のノードが線で結ばれて情報が伝わっていく様子を表している

  • 画像認識:画像分類(良品/不良品の判定)、物体検出(YOLOなどが「どこに・何が」あるかを矩形で高速検出。監視カメラの人物検知、自動運転の歩行者・標識認識)、セグメンテーション(病変領域や傷を、ピクセル単位で切り出して面積まで計測)、OCR(請求書・帳票のデータ化、ナンバープレート読み取り)
  • 姿勢推定・動画認識:スポーツのフォーム解析、介護現場の見守りカメラでの転倒検知
  • 顔認証:スマホのロック解除、空港での本人確認

技術的な勘所は、この層が画像・音声・動画のような非構造化データで圧倒的に強い一方、判断根拠がブラックボックス化しやすい点です。学習コストについては、ゼロから高精度なモデルを作る場合は大量の学習データとGPUが必要になりますが、実務では事前学習済みモデルの転用やファインチューニング(追加学習)、少量データでの検証、クラウドAPIの活用といった選択肢もあり、必ずしも一から作る必要はありません。

ちなみにパンハウスは、東京大学・松尾研究室にいた頃からこの第3層——画像・動画の認識モデル開発を本業にしてきました。画像認識モデル(YOLOXやSAMなど)を使った製造現場の外観検査(検品ミス90%削減)や、見守りカメラの転倒検知などが実例です(詳しくは開発実績をご覧ください)。

これらの技術を「使える会社」は、実は多くない

ここで一つ、大事な現実を書いておきます。この3つの層、とくに第3層のディープラーニングによる認識モデルを”自前で作れる”会社は、実はかなり少ないのです。

生成AIは、GPT・Gemini・ClaudeといったLLMのAPIを叩けば、誰でも利用できます。だから「AIを組み込んだ開発をしています」という会社は一気に増えました。しかしそれは、一番内側の層の話。外側の層——とりわけ画像・動画の認識モデルは、自社の現場データを集め、一枚ずつ正解を付け(アノテーション)、モデルを設計し、GPUで学習させ、現場に合わせて精度を調整するという、まったく別種の技術力を要します。

そのため、「AI」を掲げる会社であっても、その多くは生成AIのプロンプト活用やAPI連携にとどまり、画像・動画の認識モデルをゼロから作れるところは限られるのが実情です。AIの導入先を検討するときは、相手が”生成AIを使う”会社なのか、“認識モデルを作れる”会社なのかを見極めると、依頼のミスマッチを防げます。

まとめ——入れ子の外側にも、AIの世界は広がっている

入れ子図を外側から剥がしていくと、生成AIじゃないAIたちが見えてきました。

  1. 第1の層:機械学習を使わない、ルールベース・探索のAI(判断根拠は明確、でもルールの上限どまり)
  2. 第2の層:ディープラーニングを使わない、古典的な機械学習(表形式データに強く、今も現場の主力)
  3. 第3の層:新しい内容を創作せず、入力を認識・分類・予測するディープラーニング(画像・音声の識別系。作る力より、見分ける力)

いま「AI」という言葉が指す生成AIは、この入れ子の一番内側のごく一部。外側の3層は、どれも派手さこそないものの、いまこの瞬間も社会を静かに動かし続けています。

前回の記事が「AIの地図」だとすれば、今回はその地図の外周を一枚ずつ踏破しました。これで、AIという世界の全体像が手に入ったはずです。

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