「また議事録か……」——会議が終わるたびに、録音を聞き直し、文字起こしをして、要点をまとめる。この作業に毎回30分から1時間かけている人は、少なくありません。生成AIを使えば、この負担は大きく減らせます。
ただし、AIに議事録を「丸投げ」すると、思わぬ事故が起きます。決定事項がまるごと抜け落ちていたり、金額・日付・人の名前が微妙に間違ったまま、体裁だけはきれいな議事録が全社に共有されてしまう——。
この記事で伝えたいのは、特定のツールの操作手順ではありません。AIにどこまで任せて、どこを人が確認するか——その設計の考え方です。ここさえ押さえれば、どのツールを使っても、速くて信頼できる議事録が作れるようになります。
まず前提として、議事録づくりは生成AIが力を発揮しやすい仕事です。生成AIは、大量の文章から要点を抜き出して要約することを得意としています。会議の長いやりとりを要点だけに圧縮する——議事録の中心にある作業は、まさにその得意分野。だからこそ、活用する価値があります。
ただし、同じ議事録づくりの中でも、AIに任せていい部分とそうでない部分があります。「話の要約」はAIが得意でも、「これは決定事項か、保留か」「この数字は正しいか」の最終確定は、人の判断が要る。この線引きが、次に述べる考え方の出発点になります。
生成AIには、事実と違う内容をもっともらしく作ってしまうハルシネーションという弱点があります。議事録では、これが特に次の4か所で牙をむきます。
やっかいなのは、AIの議事録は体裁がきれいなほど、誤りに気づきにくいことです。だから「AIが作ったから大丈夫」ではなく、「AIが作ったからこそ、要所は人が見る」という姿勢が要ります。
ここで軸になるのが、Human in the Loop(人間参加型)という設計思想です。AIに任せて終わりにするのではなく、処理の流れの中に「人間が確認・修正・承認する工程」を意図的に組み込む、という考え方です。
議事録に当てはめると、こうなります。
AIが下書きを作る → 人が”要所だけ”を確認する → 確定して共有する
大事なのは、全文を読み直すのではないという点です。それでは時短になりません。確認するのは、さきほどの誤りやすい4か所——決定事項・数字・固有名詞・担当と期限に絞る。ここだけは人の目を通し、それ以外の要約や整形はAIに任せる。この役割分担が、速さと信頼を両立させます。
「AIは書く担当、人は確定する担当」。この一線を引くことが、議事録をAIに任せるときの最初の設計です。
考え方を、具体的な流れに落とすと3ステップです。
① 記録する 会議の音声を、文字(テキスト)にします。Microsoft TeamsやGoogle Meetには文字起こし機能が標準で備わっていますし、録音した音声を文字起こしツールにかける方法もあります。ここでのコツは、なるべくクリアな音声を残すこと。文字起こしの精度が低いと、後の工程で修正が増えてしまいます。
② AIで構造化する 文字起こししたテキストをAIに渡し、決まった形式で議事録に整えます。ここでの指示のしかたが品質を左右します(次章)。
③ 人が確定する 出てきた議事録の、決定事項・担当・期限・数字・固有名詞をチェックし、直して確定します。ここが Human in the Loop の要です。
②でAIに渡す指示(プロンプト)は、「いい感じに要約して」では不十分です。役割・厳守ルール・出力フォーマットまで固めて、“型”ごと渡してしまうのがコツ。たとえば、次のようなテンプレートです(最後に文字起こしを貼り付けて使います)。
あなたは会議の議事録作成を担当するアシスタントです。
以下の文字起こしを読み、必ず下記【出力フォーマット】のとおりに議事録を出力してください。
見出し・順序・記号・表の列は一字一句変更せず、内容だけを埋めてください。
情報がない項目は空欄にせず「該当なし」または「【要確認】」と記入してください。
# 厳守ルール
- 文字起こしに書かれている事実のみを使い、推測で補完しない
- フィラー(えー、あのー等)・雑談・繰り返しは除去する
- 発言者が特定できる場合は氏名または役職を明記する
- 見出しの追加・削除・並べ替えは禁止
- ですます調で簡潔に記載する
# 出力フォーマット(この形式を厳守)
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議事録
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【1. 会議概要】
・会議名 :
・日時 :
・場所 :
・参加者 :
・目的 :
【2. 議題と討議内容】
◆議題1:(タイトル)
・報告/発言:
・論点:
◆議題2:(タイトル)
・報告/発言:
・論点:
(議題の数だけ同じ形式で続ける)
【3. 決定事項】
①
②
③
(なければ「該当なし」)
【4. アクションアイテム】
| No | 担当者 | タスク内容 | 期限 |
|----|--------|-----------|------|
| 1 | | | |
| 2 | | | |
(なければ「該当なし」)
【5. 保留・未決事項】
・
(なければ「該当なし」)
【6. 次回予定】
・日時 :
・議題 :
・宿題 :
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
# 文字起こしテキスト
"""
(ここに文字起こしを貼り付け)
"""
このテンプレートのうまい点は、フォーマットを完全に固定していることです。見出しも順序も毎回そろい、そのうえ情報がない項目は「該当なし」または「【要確認】」で埋めさせるルールになっています。つまり、AIが埋めきれなかった箇所=人が確認すべき箇所が、ひと目で分かる。これはまさに Human in the Loop——確認ポイントをAI自身に印づけさせる仕組みです。前半の「間違えやすい4か所」も、決定事項・アクションアイテム(担当と期限は表で)・「推測で補完しない」でしっかり押さえられています。自社の項目に合わせて見出しを組み替えれば、そのまま定番テンプレになります(指示の組み立て方はプロンプトの書き方でくわしく解説しています)。
出力形式のプロンプトを一から書くのが難しければ、プロンプトづくり自体をAIに任せる手もあります。メタプロンプティングと呼ばれる技法です。
やり方はシンプルです。過去の「文字起こし」を10個ほどと、それに対応する「完成した議事録」を10個、まとめてAIに渡し、こう頼みます——「この文字起こしから議事録を作成するためのプロンプトを作って」。するとAIは、文字起こしと議事録を照らし合わせ、“どんな要件で・どう整形しているか”を自分で読み取り、整理してプロンプトの形にしてくれます。手作業では言語化しづらい「自社の議事録の暗黙のルール」まで、AIが拾い上げてくれるわけです。
そして、あなたがすべきことは出てきたプロンプトを確認して微修正するだけ。ここでも Human in the Loop の考え方が効いています——AIがたたき台を作り、人が仕上げる。プロンプトづくりそのものにも、この役割分担がそのまま当てはまります。
とはいえ、このテンプレートを毎回コピペして貼るのは面倒です。そこで一歩進めて、このプロンプトをAIに”埋め込んで”おく方法があります。
ChatGPTのマイGPT、GeminiのGemは、あらかじめ指示(Instructions)を設定した”自分専用のAI”を作れる機能です。ここに上記の出力形式を仕込んでおけば、使うときは文字起こしを貼るだけで、決まった形式の議事録が出てきます。自社の議事録フォーマットをファイルとして持たせれば、Word形式でのダウンロードにも対応できます。
そして最大の利点が標準化です。作ったマイGPT/Gemはリンクでチームに共有できるため、誰が作っても同じ品質・同じ様式の議事録になります。「あの人が作る議事録は分かりやすいけど、別の人のは……」という属人化を、仕組みで解消できるわけです。


この「AIに自社のやり方を覚えさせる」考え方はAIに「自社のこと」を覚えさせる、マイGPT・Gemの仕組みそのものはRAGとはでも扱っています。
最後に、考え方としてもっとも大切な点です。議事録には、社外に出せない情報が詰まっています。
会社としては、個人の注意任せにせず、「安全なツールを、正しいプランで、全社に用意する」のが基本です。この考え方は会社でAIを使う前に、社員がこっそり使ってしまうシャドーAIの問題とあわせて押さえておきましょう。
「AIに議事録を作らせるか」で悩む段階は、もう終わりました。これからは「どこまで任せて、どこを人が見るか」を設計する段階です。この線引きさえできれば、議事録は”時間のかかる雑務”から”AIと分担する軽い作業”に変わります。
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