生成AIを使い始めた人が、資料作成でだいたい一度は通る道があります。
「AIに提案資料を作ってと頼んだのに、それっぽいだけで、そのままは使えない」
見出しは並んでいる。文章も一見きれい。でも読み返すと中身が薄く、デザインもどこかチグハグで、直そうとすると全体が崩れる——。そして結局、自分で一から作り直すことになります。
原因は、AIの性能ではありません。頼む順番です。
考えてみると、私たち自身も資料を作るとき、いきなりスライドの1枚目から作り始めたりはしません。まず「何のために・誰に・何を伝える資料か」を頭の中で整理し、次に話の流れを決め、それから見た目を整える。この順番を、無意識にたどっています。
AIに資料を「丸投げ」するというのは、この順番をすべて飛ばして、いきなり「完成品」を要求している状態です。順番を飛ばせば、人間がやっても良い資料はできません。AIも同じです。
この記事では、実際に社内で作った提案資料(ある経営層向けのセミナーを提案する、全14枚のスライド資料)を題材に、AIで資料を作るときの4つの順番を紹介します。使ったのはターミナル(黒い画面に文字で指示するタイプのツール)上で動くAIエージェント「Claude Code」ですが、考え方はChatGPTなど他のツールでもそのまま使えます。
この資料づくりの出発点は、上司から社内チャットで届いた、たった一言の依頼でした。
「経営層向けの勉強会の提案資料を作ってほしい。ターゲットは経営者が集まる団体・会」
ここで最初にやったのは、資料を「作る」ことではありません。この依頼の背景を、AIと一緒に文章に起こすことです。具体的には、次の3つをはっきりさせました。
この整理を先にやると、後の全工程が一本の軸で通ります。逆にここを飛ばすと、「なんとなく良さそうなAI活用資料」はできても、「主催を決断させる資料」にはならない。出発点が一言だからこそ、その一言に隠れている狙い・読み手・前提を、最初に言葉にしておくことが効きます。
前提のなかでも特に注意したいのが、講師の実績・過去の導入社数・提供できるプログラムの型といった「自社の情報」です。ここをAIに推測させると、事実と異なる数字や、それらしい記述が混じることがあります。資料の信頼を一発で崩す原因が、たいていここに潜んでいます。
そこで今回は、これらの事実をAIに考えさせず、あらかじめ用意した自社の正確な情報として渡しました。この「AIに自社のことを正しく教えておく資料」は、一般にナレッジファイル(知識ファイル)と呼ばれます。今回はClaude Codeの「スキル」という仕組みでまとめて渡しましたが、これはツール固有の話ではありません。ChatGPTでも他のツールでも、“自社の前提をまとめたテキストを用意して渡す”という考え方はまったく同じです。
AIの仕事は「事実を作ること」ではなく、「渡された事実を、読み手に刺さる形に組み立てること」。この切り分けが、その1の肝です。ナレッジファイルの作り方そのものは、別記事で詳しく解説しています:AIに「自社のこと」を覚えさせる——システムプロンプトとナレッジファイルの仕組みと使い方
正直に打ち明けると、この背景整理は、用意周到な1つのプロンプトで一気に渡したわけではありません。実際は、こんな短いやり取りの積み重ねでした。
つまり、立派なプロンプトを一発で書く必要はありません。大事なのは”文章の巧さ”ではなく、渡す情報の順番と種類です。①依頼の一次情報、②口頭で足りない条件、③自社の情報(ナレッジファイル)——この3つが揃えば、AIは背景を正しく掴めます。逆に、この3つのどれかを省いて「いい感じの提案資料作って」と打つと、AIは足りない部分を”それっぽく”埋めてしまう。それが、冒頭の「使えない資料」の正体です。
コツ:いきなり「作って」と言わず、「この依頼の狙いと読み手を整理して」から始める。そして、実績や社数といった「自社の情報」は、AIに推測させず正確な情報を渡す。AIは、前提を渡さないと、足りない部分を自分で推測して埋めてしまいます。前提を口頭の一言のままにせず、文章にして共有するのが第一歩です。
背景が固まっても、まだスライドは作りません。次にやるのは、スライド1枚ずつの中身を、ただの文章として書き切ることです。具体的には、AIに「構成.md」という1つのマークダウンファイルを作らせます(マークダウンは、装飾を使わずテキストだけで見出しや箇条書きを書く形式のこと。詳しくは別記事をご覧ください)。
今回でいえば、「表紙にはこの一言」「2枚目はご提案の全体像で、誰に・何を・どんな形で、の3点」「3枚目はなぜ今なのか」……というふうに、14枚分の”設計図”をテキストで先に作りました。色もフォントも図もない、文章だけの状態です。
なぜデザインより先に中身なのか。文章の段階なら、修正が一瞬で終わるからです。
もしこれを、デザイン済みのスライドでやろうとしたら、レイアウトの作り直しが毎回発生します。実際、今回も設計図を見ながら「全体像のあとに目次を入れよう」「このパートは経営者向けに表現を変えよう」といった調整を何度も重ねましたが、文章だったからこそ、そのやり取りは驚くほど速く進みました。
その2で最初にやったのは、たった一言でした。
まず、この提案資料を1枚ずつ設計します。各スライドについて「見出し」「そのページで伝えたいこと」「載せる要素(箇条書き・表など)」を書き出し、全体を1つのマークダウンファイル(構成.md)にまとめてください。最初に、全体で何枚・どんな順番にするかの案から見せてください。
これで文章の骨格(=14枚の設計図)が出てきます。あとは、その文章を見ながら短い指示で直していくだけ。実際に打っていたのは、こんな一言たちでした。
どれも一言です。文章の段階だから、直しがこの短さで済む。もしスライドを作り込んだ後で同じことをやっていたら、一つひとつがレイアウトの作り直しになっていたはずです。ここでいくら直しても痛くない、という状態を作っておくのがその2の狙いです。
コツ:スライドは「文章が確定してから」作る。中身とデザインを同時にAIに任せると、直すたびに両方が崩れやすくなります。まず文章で骨格を合意し、それを”確定稿”として扱うと、後戻りが激減します。
なお、この段階で実際に作る「構成ファイル」のサンプルを公開しています(スライドを作る前の”文章だけ”の設計図。固有名は伏せた汎用版です):構成ファイルのサンプルを見る
中身が固まったら、いよいよ見た目です。ここでよくある失敗が、「かっこいいデザインにして」とだけ伝えて、ゼロから作らせてしまうこと。これをやると、毎回テイストが変わり、社内の資料がバラバラになります。
今回とった方法はシンプルです。すでにある完成物を1つ、見本として渡す。
今回も、あらかじめ用意してあるデザインシステムのHTMLの型を渡して、「このデザインに合わせて」と伝えました。すると、色の組み合わせ(濃紺×オレンジ)、フォント、ロゴの位置、ページ番号の付け方まで、新しい14枚が一気に同じテイストで揃いました。ゼロから「良いデザイン」を探させるより、決まった型を1つ渡すほうが、速く、ブレません。
この「見本にする型」は、毎回その場で用意しているわけではありません。パンハウスでは、Claude Codeの「Claude Design」という機能にあるデザインシステム(DesignSystem)を使って、あらかじめHTML形式の型を作ってあります。色・フォント・余白・ロゴの扱いといったルールを1つのデザインシステムとしてまとめておき、資料を作るたびに、それを土台として使っています。だからこそ、誰がいつ作っても、同じテイストの資料に仕上がります。(Claude Designの具体的な使い方は、別記事で改めて扱います)
コツ:「良いデザインを考えて」ではなく「この見本に合わせて」と指示する。会社としてテイストを揃えたいなら、“見本にする1枚”を決めておくと、以降の資料づくりが標準化されます。
ここまでで、送れる形の資料がひとまず出来上がります。でも、最後の仕上げは人間の仕事です。
AIは資料を「作る」ことはできますが、出来上がったものの良し悪しを最終判断するのは、まだ人間のほうが得意です。そこで、完成したスライドを1枚ずつ画像にして目で確認し、気になった点を直す——という地道なループを回します。今回、実際に出たのはこんな修正でした。
どれも、文章を読んでいるだけでは気づきにくく、画面で見て初めて分かる類のものです。逆に言えば、ここさえ人間が丁寧に見れば、AIが作った資料も”そのまま送れる品質”まで持っていけます。
コツ:完成イメージを画面で確認してから世に出す。AIの出力を鵜呑みにせず、「見た目」と「言葉の強さ」だけは必ず人の目を通す。この最後のひと手間が、資料の信頼感を決めます。
そして、この4ステップで仕上げた「完成版スライド」のサンプルもどうぞ。その2で見た構成ファイルが、最終的にどんな資料になるのか、見比べてみてください(PDF・全14枚。同じく固有名は伏せています):完成版スライドのサンプルを見る
AIで資料を作るコツは、突き詰めると「丸投げしない」ことに尽きます。そして、丸投げしないための具体的な手順が、この4つの順番でした。
この順番で作ると、良いことが3つあります。担当者が変わっても品質が落ちにくい(型と手順が残るから)、作る数が増えても回せる(毎回ゼロから悩まないから)、そして修正が速い(後戻りが少ないから)。今回も、チャットの一言から、そのまま送れる14枚の提案資料まで、この順番でたどり着きました。この進め方で実際に商談フォローの資料を30分で仕上げた実例は、商談後30分でここまでできたで紹介しています。
AIに「良い資料を作らせる」秘訣は、実はプロンプトの上手さではありません。人間が資料を作るときの当たり前の順番を、AIとの間でも丁寧に踏むこと。それだけです。
なお、この考え方をさらに一歩進めて、「AIが自分で起動して、営業準備を毎朝終わらせる」ところまで自動化した事例も別記事で紹介しています。あわせてどうぞ:誰も起こさなくても動く——Claude Codeが毎朝6時に営業準備を終わらせる仕組み
資料作成を含む「日々の業務」をAIで軽くしませんか?
何をどこまでAIに任せられるのか、自社の業務に当てはめて一緒に整理します。型として残せば、担当者が変わっても・数が増えても回る——そんな仕組み化までご一緒します。「まず何から手をつければいいか分からない」という方もお気軽にご相談ください。
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