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あなたが「AI」と呼んでいるもの、本当にAIですか?——「ルールを書けるか」だけで判断が決まる

あなたが「AI」と呼んでいるもの、本当にAIですか?——「ルールを書けるか」だけで判断が決まる

パンハウスインサイト編集部
2026.07.03

「AIチャットボット」「AI自動化」——そう呼ばれているものが、身の回りに増えてきました。でも少し立ち止まって考えてみてください。それは本当に「AI」でしょうか。

「お問い合わせの内容を選択してください。①商品について ②配送について ③返品について」と返してくるチャットボット。「売上が目標の90%を下回ったら赤く色付けする」というExcelマクロ。「件名に”重要”と入っていたら優先フォルダに移動する」というメールフィルター。

これらはどれも、人間があらかじめ書いたルールに従って動いています。厳密な意味では、AIではありません。

では、本物の「AI」とは何か。そしてルールベースの処理とどう使い分ければよいのか。この記事では、その判断を一本の軸で整理します。

「AIっぽく見えるもの」の正体——ルールベース処理

ルールベース処理とは、人間があらかじめ書いたルール通りに動く仕組みです。ExcelのSUM関数がわかりやすい例です。=SUM(A1:A10)と書けば、A1からA10の数値を合計する——それだけです。入力値が何であっても、定義したルールを正確に実行します。「だいたい合計して」「いい感じに足して」といった曖昧な指示は受け付けません。GASやVBA、Pythonによる業務自動化も、この同じ原理で動いています。ルールベース処理の大きな特徴は、同じ状況であれば必ず同じ結果が返ってくることです。=SUM(A1:A10)は今日実行しても明日実行しても、データが同じなら同じ答えを返します。この再現性の高さが、業務自動化における信頼性の根拠です。

代表的なツールは3つです。

GAS(Google Apps Script) はGoogleのスプレッドシートやGmailを自動操作できるプログラム言語です。Google製品でのマクロのようなもので、Googleアカウントがあれば無料で使えます。

VBA はExcel・Word・Outlook・AccessなどMicrosoft Officeを自動操作するためのプログラム言語です。「マクロ」と呼ばれることが多く、Excelを日常的に使っている方にとって最も身近な自動化ツールです。

Python はより汎用性の高いプログラム言語で、ファイル操作・データ処理・外部サービスとの連携など幅広い用途に使えます。

これらで自動化できる処理の例を挙げると、次のようなものがあります。

  • Googleフォームの回答を指定シートに自動転記する
  • 売上が前月比90%以下のセルを赤く着色する
  • 毎朝9時にスプレッドシートの集計結果をメール送信する
  • 経費精算データを集計してレポートを上長に自動送信する
  • フォルダ内のファイルをファイル名の日付でフォルダ分けする

条件が明確で、毎回同じ処理をするならルールベースが向いています。速い・正確・安定・安価、という点では生成AIよりも優れています。

「プログラミングができないから無理」と思う必要はありません。ChatGPTに「GASで〇〇する処理を書いて」と頼むだけでコードが生成できます。コードが書けなくても、ツールとして使うことは十分可能です。

本物のAI(LLM)が違う理由

生成AI、特にLLM(大規模言語モデル)は、ルールベース処理と根本的に異なる仕組みで動いています。

LLMは、インターネット上の膨大なテキストデータから「次に来る言葉の確率」を学習したモデルです。「むかしむかしあるところに、おじいさんと」という文章の続きとして「おばあさんがいました」が確率的に最もらしい——という形で言葉を繋いでいきます。人間が書いたルールではなく、統計的な確率で動いています。そのため、同じ質問をしても毎回異なる回答が返ってくることがあります。これはバグではなく、確率的に言葉を選ぶLLMの性質そのものです。LLMの仕組みについて詳しくはこちらの記事で解説しています。

この仕組みゆえに、LLMはルールを書けない処理を得意とします。

  • このメールは怒っているのか、困っているのかを判断する
  • 会議の録音から要点・決定事項・ネクストアクションを抽出する
  • 顧客の問い合わせ文を読んで、適切な担当部署に振り分ける
  • 報告書の文章を「もっと読みやすいトーンに」書き直す
  • 提案書のどこが弱いかを指摘する

これらは、条件を言葉で書こうとした途端に例外が無限に出てきます。「怒っているとはどの程度か」「読みやすいとはどういう状態か」を定義しようとすると、人間でも難しい。だからルールでは書けない。だからAIが必要になります。

一方で、LLMは正確な計算や最新情報の取得が苦手です。確率的に「それらしい答え」を生成しているため、文字数を正確に数えたり、今日の株価を答えたりすることはLLM単体ではできません。

判断の一本軸——「ルールを言葉で全部書けますか?」

ツールを選ぶときの判断は、これだけです。

「その処理の条件を、漏れなく言葉で書き出せますか?」

書ける → GAS / VBA / Python で自動化する

書けない(「いい感じに」「文脈を読んで」「ニュアンスを汲んで」が必要) → AI(LLM)に任せる

「書けるか迷う」場合は、書けるところだけ自動化して、残りをAIに渡す形が最適解です。

AIでもルールベース処理ができる理由——コード実行という仕組み

ここまで「LLMは確率的な言語予測なので、正確な計算やルール処理は苦手」と説明してきました。ただし、現代のAIツールの多くは純粋なLLMだけで動いているわけではありません。

ChatGPT・Claude・Geminiなど主要なAIツールには、コード実行エンジンが組み込まれています。ユーザーが「集計して」「グラフを作って」「ファイルを変換して」と指示すると、AIは裏側でPythonなどのコードを自動生成して実際に実行します。LLMが「言葉の予測」をしているのではなく、本物のプログラムが動くため、計算やデータ処理の結果が正確になります。

ChatGPTではこの機能を「Advanced Data Analysis(データ分析)」と呼び、ClaudeやGeminiにも同様のコード実行機能があります。ノーコードのAIプラットフォーム(Difyなど)でも、ワークフローの中にコード実行ノードを組み込むことができます。

コード実行機能で対応できる処理には次のようなものがあります。

  • ExcelやCSVをアップロードして集計・グラフ化する
  • 数値の正確な計算(合計・平均・偏差など)
  • ファイル形式の変換(CSV→Excel、単位変換など)
  • 2つの文書の差分比較
  • キーワードの出現回数を正確にカウントする

「AIは計算が苦手」と言いながら、集計の指示に正確な答えが返ってくるのはこの仕組みがあるからです。LLMが計算しているのではなく、実際に実行されたコードの結果をLLMが受け取って回答しています。

ただし、できないこともあります。

AIに内蔵されたコード実行機能はあくまでチャットセッションの中で動くため、定期的に自動実行したり、スプレッドシートやメールと常時連携したりすることは苦手です。「今このファイルをその場で処理する」という一回限りの用途には向いていますが、「毎朝9時に自動集計してメールを送る」という継続的な自動化にはGAS・Pythonなどの実行環境が必要です。

整理するとこうなります。

AIのコード実行機能が向く用途:手元のファイルをその場で分析・加工したい、一度だけ処理したい

GAS / Pythonが向く用途:定期的に・自動的に・外部サービスと連携しながら処理を続けたい

AIだからといってルールベース処理が一切できないわけではありません。ただ「その場で一回」か「定期的に自動で」かによって、適切なツールが変わります。

最強は組み合わせ——GAS / Python × AI

ルールベースとAIは競合するものではありません。組み合わせることで、自動化できる業務の守備範囲が格段に広がります。

メール分類の自動化:GASでGmailを定期取得 → AIでカテゴリ・感情を分析 → スプレッドシートに自動記録

問い合わせ対応の半自動化:Googleフォームの受信をトリガーに → AIで回答案を生成 → Gmailの下書きに自動保存

月次レポートの自動生成:GASで売上データを集計 → AIで傾向・所感の文章を生成 → 上長へ自動メール送信

「ルールで書ける部分は確実に自動化し、判断が必要な部分だけAIに渡す」という役割分担が、最も効率のよい構成です。連携コードもAIに書かせれば、プログラミング未経験でも実装できます。

まとめ

  • 「AIっぽく見えるもの」の多くは、人間が書いたルールで動くルールベース処理
  • 本物のAI(LLM)は確率的な言語予測で動き、ルール化できない処理を得意とする
  • 判断の軸は「ルールを言葉で全部書けるか」の一点だけ
  • ルールで書けるもの → GAS / VBA / Python、書けないもの → AI
  • 組み合わせることで自動化できる業務が最大化する

まず今週、自分が手作業でやっている業務を一つ選んで「これ、条件を全部書き出せる?」と問いかけてみてください。書けるならルールベースで処理です。書けないなら、AIの出番です。

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