生成AIを業務に使っている多くの企業が、ある段階で気づく壁があります。
「使うのは便利だが、毎回自分でプロンプトを打たなければならない」
これは、AIをツールとして使っている状態です。便利ではあるものの、作業を始めるのは依然として人間です。
AIエージェントの本来の姿は、もう一段先にあります。決められた時間に自律起動し、誰も何も指示しなくても仕事を終わらせて、結果だけを人間に届ける。そういう動き方です。
株式会社パンハウスでは、Claude Codeの「Routine」機能を使って、毎朝6時に自動起動し、当日の商談先をリサーチして、レポートを生成し、担当営業のSlackに届けるまでを全自動化しています。誰も何も操作しない状態で、この一連の流れが毎朝動いています。
AIが毎朝行う仕事を順番に説明します。
スプレッドシートで管理しているリードデータの中から、「今日が初回商談日」になっている会社を自動で特定します。次に、各社の公式サイト・IR資料・採用情報・ニュースリリースを横断的に調査し、事業内容・売上高・従業員数・代表者・AI活用状況などを収集します。さらに、人材開発支援助成金の区分(大企業区分か中小企業区分か)を業種・資本金・従業員数から自動判定し、その会社の業務に合いそうなAI活用事例を3〜5個提案します。
これらをまとめたブリーフィングレポートを生成してGoogle Driveに保存し、担当営業宛てのメンション付きでSlackに届ける。以上が、毎朝6時に始まって完了するまでの一連の流れです。
実際に生成されるレポートのサンプルはこちらから確認できます(トヨタ自動車株式会社): ブリーフィングレポートのサンプルを見る
導入前、商談前の企業調査は担当者一人ひとりの「手作業」でした。商談の30〜60分前になってあわてて会社名で検索し、公式サイト・採用情報・ニュースリリースを複数タブで確認する。「この会社、助成金は大企業区分か中小企業区分か」という確認も毎回一から必要で、担当者のスキルや当日の時間的余裕によって調査の深さがバラつきました。準備ができていない状態で商談に入ることも、珍しくありませんでした。
導入後は、出勤前にSlackを開くと、その日の商談先のレポートがすでに届いています。事業概要・財務情報・AI導入状況・提案テーマ・商談で確認すべきポイントまでが1枚に整理された状態です。電車の中でそれを読み込むだけで準備が整います。
| 導入前 | 導入後 | |
|---|---|---|
| 準備にかかる時間 | 1件あたり20〜60分 | レポートを読む5〜10分 |
| 調査の品質 | 担当者によってばらつく | 毎回同じフォーマット・同じ深さ |
| 助成金判定 | 毎回調べ直す・見落とすことも | 自動判定・レポートに記載済み |
| 商談件数が増えたとき | 準備が追いつかなくなる | 件数が増えても準備コストは変わらない |
| 担当者が変わったとき | 調査のやり方を引き継ぐ必要がある | 誰でも同じ品質のレポートを受け取れる |
ここからが、このスキルの本質的な設計ポイントです。
ローカルPC上でClaude Codeを動かす場合、スキルを呼び出すのは常に人間です。起動してください、と誰かが命令する必要があります。それはそれで価値がありますが、「誰も起こさなくても動く」わけではありません。
Claude Codeには、Routineという機能があります。GitHubリポジトリとスキルをRoutineに登録しておくことで、設定したスケジュールに従ってクラウド上のClaude Codeがリポジトリのコードを読み込み、自律的にスキルを実行します。今回のスキルは毎日6時(日本時間)に起動するよう設定されています。
クラウド環境の実装で最初につまずいたのが、タイムゾーンの問題でした。
クラウドサービスのサーバーは多くがUTC(協定世界時)で動いています。日本時間(JST)との差は+9時間。これを意識しないと、朝6時(JST)に起動したつもりが、サーバー内部では前日の21時(UTC)として処理されてしまいます。「今日の商談」を取得したのに、結果が「昨日」の日付でフィルタされてしまう——そういう1日ずれが起きます。
このスキルでは、日付を取得するすべての処理に TZ=Asia/Tokyo を明示することで、この問題を回避しています。シンプルな対処ですが、見落とすと毎日1日ずれたレポートが届くことになるため、必須の実装です。
もう一つの設計上の工夫が、Slack通知のタイミングです。
6時に起動して処理が終わるのは6時台です。しかし、6時台のSlack通知が届いてもほとんどの人はまだ仕事を始めていません。通知は7〜8時台に届いてほしい。
そこで採用したのが、2段階の非同期設計です。
背景にある制約として、Claude CodeのRoutineが動くクラウド環境は、セキュリティ上の理由から接続できる外部サービスが限られています。Slackへの直接投稿もその対象に含まれるため、処理結果を一度Google Driveに書き出し、別のシステムに受け渡す設計にしました。
Claude CodeのRoutineは、処理が完了したら「Slackに投稿してほしい内容」をJSONファイルとしてGoogle Driveの特定フォルダに置いておきます。これが第1段階。
別途、Google Apps Script(GAS)に「毎朝7〜8時に起動して、そのフォルダをチェックし、ファイルがあればSlackに投稿する」という処理を設定しておきます。これが第2段階。
GASとは、Googleが提供するスクリプト実行環境です。Google スプレッドシートやドライブと連携した処理をJavaScriptで記述でき、時間ベースのトリガー(「毎朝7時に実行する」といったスケジュール実行)を標準機能として持っています。今回はこのトリガーを使って、Claude Codeが置いたJSONファイルを定刻に拾い上げ、Slackへ投稿しています。
[06:00 JST] Claude Codeルーティン起動
↓ リサーチ・レポート生成・Drive保存
↓ 投稿命令JSONをpendingフォルダに配置
[07:00〜08:00 JST] GASトリガー発火
↓ pendingフォルダをチェック
↓ Slackに投稿・processed-slackへ移動
[Slack通知が届く]
ClaudeとGASという異なるシステムを、Driveフォルダというシンプルなキューで繋いでいます。
この事例を通して浮かび上がる原則があります。
AIエージェントを業務自動化に使うとき、最も効果が高いのは「毎日繰り返す、手順が決まっている、でも途中に判断が必要」という業務です。商談前調査は、まさにその典型です。毎朝必ず行う、調べる項目は決まっている。そして「この会社の助成金の対象になるか」「どのAI活用事例が刺さりそうか」という判断は、定型でありながらケースごとに変わります。これがAIエージェントの出番です。
さらに今回のポイントは、これをRoutineで「自律起動」させたことです。「AIが使えるから便利」という段階から「誰も起動しなくても毎朝動く」という段階へ。出張中でも、担当者が休みの日でも、設定した時間に確実に動きます。人間が「今日もやろう」と意識しなくてよくなる——これがRoutine化の本質的な価値です。
この仕組みが効果を発揮しやすい条件を整理しました。
逆に、商談件数が月4件以下の場合や、事前調査より「現場の会話から始める」スタイルの営業には、費用対効果が合いにくいこともあります。まずは「自社の営業プロセスの中に、繰り返し・定型・でも判断が入る工程はどこか」を棚卸しするところが出発点です。
本記事で紹介した仕組みは、おおよそ次の要素の組み合わせで成り立っています。
どれも単体では難しい技術ではありませんが、これらを「誰も触らなくても毎朝動く」形に組み上げることが、AIエージェント活用の本質です。
「うちの会社でも似たような仕組みを作れないか?」と感じた方は、ぜひパンハウスにご相談ください。
AIエージェントを「自律稼働」させる研修、はじめませんか?
Claude Codeを使った業務自動化の設計から実装・運用定着まで、パンハウスがハンズオンで支援します。「まず何から手をつければいいか分からない」という方もお気軽にご相談ください。
この記事を書いた人
関連記事
2026.07.06
記事のネタ収集をAIに自動化させてみた——ナレッジ蓄積の仕組みづくり
2026.07.05
プロンプトの書き方——AIへの指示が変わると答えが変わる
2026.07.02
AIに「自社のこと」を覚えさせる——システムプロンプトとナレッジファイルの仕組みと使い方
© 2026 panhouse Inc. All rights reserved.